こずえさんのブログだよ。全員集合!

ひたすら無益。くすっと笑ってもらえたら幸いです。

スポンサーリンク

木曜サスペンス劇場 十三大橋、殺意のバイパス

f:id:aimyptaofficer:20190202000802j:plain

 

その日は前の晩小雨が降ったのち、夜が明けると風が冷たく感じる朝だった。

 

(パトカーのサイレンの音)

ここは大阪府大阪市にある、十三(じゅうそう)公園。外の道路には何台ものパトカーが止まっている。そして公園内の一角にはブルーシートで囲われた、物々しい空間が広がっていた。忙しそうに警察官が行き来する。そんな張り詰めた現場に、スーツ姿で大あくびをしながら規制線の中へと入っていく、若い男がいた。

「はぁ、今朝は一段と冷えるのに、こんな日に限って朝から現場ですか。うぅっ、寒いなあ。」

身震いをしながらぼやくのは警部補の平野だ。そんな彼の肩を「まあ、そう言うなよ」と言わんばかりにトントンと叩く。

「あっ、天王寺警部、おはようございます!」

一瞬にして彼に緊張が走り、急に態度がシャキッとする。

寒い朝にご苦労だったな、平野。…で、何か判ったか?」と天王寺

「あっ、ハイ。ガイシャは旭啓一(あさひけいいち)42歳、ベンチャー企業の社長だったらしいですね。うわぁ、ブルガリの時計。さすがっすね。」ため息交じりに平野が漏らす。しかし天王寺は表情を変えずに話を続ける。

「死亡推定時刻は?」

「昨夜の10時から11時の間ではないかとの事です。」

「所持品は?」

「荒らされた形跡はないですね。物取りの犯行ではなさそうです。まあ、物取りなら真っ先にこの時計を狙うでしょうね。…はあ。」

平野はブルガリがよっぽどうらやましいようだ。天王寺は知らん顔で話を続ける。

「死因は?」

「あっ、窒息死らしいです。」

「窒息死か…。ん?でも後頭部に殴られたような傷と出血の跡があるぞ。それにこの顔に謎の丸い内出血の跡が無数にあるが…。」

「おかしいですよね。とりあえず司法解剖してもらって、詳しく調べましょう。」

 

・・・

天王寺警部!現場から出ました!今、鑑識から連絡がありまして、ガイシャの後頭部を殴った凶器は、茶色の、やや大きな陶器の壺だという事です。血痕のついた破片が出ましたので、さらに詳しく調べてもらっています。」

「ありがとう、平野君。ちょっとその破片、見せてくれるかな?」

そう言って天王寺は小さなビニール袋に入れられた陶器片を受け取り、じっと見た。

「ほほう、この色、この感じ…。ふむ、わかったぞ。」

「えぇっ⁉」

「これは…、蛸壺だ。わかるか?この蛸壺にはタコが入っていた。しかも生きた…な。ガイシャは何者かに蛸壺で殴られたあと、その割れた蛸壺から出てきたタコに吸い付かれ、窒息死したと。これで無数の内出血の説明がつく。」

平野はこの荒唐無稽な推理に一瞬笑いがこみ上げてきそうになったが、天王寺の真顔を見て、ぐっとこらえた。

「は…はは…。まさか、そんな偶然が度重なることがあります…かねぇ…。」

そこへ一人の男が駆け寄ってきた。鑑識の男だ。

「出ました!ガイシャの顔面から、タコの細胞片が!!」

平野はあまりの衝撃で、よろけ、吉本新喜劇ばりにこけてしまいそうになってしまった。こんなの、コメディでもなかなかありえない展開だ。しかし天王寺は予定通りと言った、涼しい顔をしている。

「ふむ…。これで裏はとれたな。あとはガイシャの近辺を徹底的に洗うんだ。あと、タコに関係する人間も洗いざらい調べておくんだ。」

 

 

・・・・・

 天王寺警部は店内でゆったりとコーヒーを飲んでいた。

そこに、平野が駆け寄ってきてイスに座る。手にはトレイに乗せられたドーナツとコーヒーがあった。

「警部、調べてきました。…しかし、なんだってミスドなんですか?」

「お代わり自由だからだ。さあ、ガイシャの身辺を洗ったか?」

マイペースな天王寺に呆れつつ、平野は話し始めた。

「とりあえず怪しそうなのは2人ですね。まずは西成可奈子(にしなりかなこ)、22歳。十三駅前のたこ焼き屋のアルバイト店員です。旭とは交際の噂がありましたね。あ、旭は女性関係の噂が絶えなくてね、他にも色々浮名を流していたようですよ。」

「ほう。…で、アリバイは?」

「そこなんです。西成は夜10時にアルバイトを終え、電車に乗って自宅に帰ったと供述していますが、十三駅から電車に乗ったのが夜11時過ぎなんです。駅の防犯カメラに映っていました。なので、ちょうど犯行時刻の1時間が空白なんです。本人に聞いても、スマホをいじっていたとか言って、はっきりしたアリバイはありません。」

 「ほう、たこ焼き屋ね。タコも容易に手に入るな。…で、店の評判は?」

天王寺はおかわりをしたコーヒーを飲みながら、マイペースに聞く。

「けっこうな人気店みたいですよ。客の入りもすごいですしね。でも、いくらたこ焼き屋と言っても、普通は生きたそのままのタコは扱わないでしょう。」

「ふむ。まあそうだな。だが、Twitterにはこう書いてあるぞ。『タコは小さいのしか入っていない、たまにイカのゲソが混入している、あの店は最悪だ。』とな。どうやら同一人物のツイートのようだ。」

「まぁ、変な客があることないこと書くこともありますからねぇ。いちいち気にしてたらキリがないですよ。」

「ふむふむ。どうやら西成可奈子はシロだな。」

天王寺の突然の推理に、平野は全くついていけなかった。

「はぁ!?一体今の話だけで、なにをどうやったら西成がシロになるんです?」

「このツイートだ。たこ焼き屋の悪口のツイート。」

そう言って、天王寺は自分のスマホの画面を見せた。Twitterの画面だ。

 

“@bewestk75    十三駅前のたこ焼き屋、マジで不味い。最悪  ●月○日 午後10時15分”

・・・

・・・

“@bewestk75 ってかあの店マジでヤバいって。たこ焼きじゃなくてイカゲソ焼きだもん  ●月○日 午後10時54分”

・・・・

「うわぁ、1時間連続で、合計40ツイートですか。よくこんな悪口ばっかり書けますね。」

「そう、この悪口を書いた張本人こそ、西成可奈子だ。アカウント名を見てみろ。be west、beはなると言う意味、westは西、西になる…つまり西成と言うわけだ。k75というのは可奈子の語呂合わせといったところか。彼女のスマホの履歴と、このツイートの発信元を調べたら分かるだろうが、まず間違い無いだろう。」

そう言うと天王寺は3杯目のコーヒーお代わりを頼んだ。平野はただただ驚き、声が出なかった。天王寺は続ける。

「何の意図があったのかは知らないが、彼女の行為は立派な偽計業務妨害罪だ。それは別件にて対応しなければならないだろう。しかし、この悪意のツイートのために、皮肉なことに彼女のアリバイは成立してしまった。」

「はぁ…。僕には話が飛びすぎて頭がついていっていないのですが…。」

混乱する平野を横目に、天王寺は運ばれてきた3杯目のコーヒーに砂糖を入れながら言った。

「で、もうひとりの方は?」

その言葉で平野はハッと我に返り、慌てて手帳に目を落として話し始めた。

「あっ、はい。もうひとりは鶴見玲子(つるみれいこ)、31歳。雑誌編集社に勤務しています。旭の本命だったんじゃないかとの噂がありましたね。そして、犯行時刻頃、十三近辺にいた事が判明しました。北区の自宅付近からカーシェアリングで夜9時半頃車を借り、返却したのが10時半と記録に残っています。その車が十三の府道沿いの防犯カメラに映っていました。うーん、怪しいと言えば怪しいですが、車の返却時刻から考えると、なかなか厳しいですね。」

天王寺はその話を聞くと、険しい顔をしてコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

「よし、鶴見の自宅に行くぞ。」

平野は話すのに集中してしいて、まだ食べてなかったドーナツを慌てて口に押し込み、立ち上がった。

 

・・・・・

 ここは大阪市北区のとあるマンション。この8階に鶴見玲子は住んでいた。平野はインターホンを押す。露骨に警戒した顔で鶴見は出てきた。

「…。警察の方が、なにか御用ですか?」

その険しい顔に、おどおどしながら平野は喋り始めた。

「あ…どうも、休日の日にすいません。ちょっと旭さんの事件の事でお聞きしたいことがありまして…。」

はぁっ、と鶴見は大きなため息をつく。

「…確かに啓一さんとは交際していました。でも、こんなことになって、一番困惑しているのは私なんですよ。」

「そうですよね、はい、わかります。お辛い心中お察しします。でもですね、一応警察としては聞かないといけないことがありまして、すいません…。」

平野はとにかく下手にでて、へこへこするしかなかった。

「で、鶴見さん…。あの日の夜はカーシェアリングで車を借りていたようですが…、一体どちらに行ってらしたんですか?」

「十三です。その日雨が降ってたので、車で出かけようと思って。」

「十三の、どちらに?」

ドン・キホーテです。ちょっと欲しいものがあって。レシート見ます?」

と、鶴見は財布からレシートを出してきた。確かにそのレシートには『 ●月○日 午後10時08分』と印字してある。

「10時過ぎに店を出て、コインパーキングから車を出して、新十三大橋を通って、10時半に車を返却したんです。公園に寄る時間なんてないですよね。」

鶴見は少し不機嫌な顔で言った。平野はひたすらおどおどしていた。しかし、天王寺は冷静に聞いていた。

「ほうほう、鶴見さん。あなたはその日、新十三大橋でご自宅にお帰りになったのですね。」

「そうよ、十三大橋よりも、新十三大橋の方が自宅に近いでしょ?」

天王寺はニヤリとした。

「鶴見さん、あなたは普段あまり運転をしない方とお見受けしました。そして、あなたは嘘をついている。」

「な…何を証拠に…。」

「実はね、鶴見さん。新十三大橋は一方通行の橋で、十三側からは通れないんですよ。お気づきではなかったですか?だから、帰りは必ず十三大橋を渡らないと北区には帰宅出来ません。おっと、ダジャレみたいになりましたな。」

鶴見はがっくりと肩を落とした。

「誰か同行者がいて、その人に車を返却してもらい、あなたは犯行に及び、その後他の交通手段で帰ったようですね。まあ、周辺で聞き込みをしたらわかることでしょう。」

鶴見の顔は真っ青に青ざめていった。天王寺は表情も変えず、続けた。

「そして鶴見さん、あなたはタコを飼っていましたね。インスタを拝見したんです。『彼と私のペットは仲良し』とかあり、旭氏にタコがなついていた、ほほえましい投稿もありましたな。犯行当時、タコが顔面についていたのも納得がいく。そして、タコの上から口を抑え、窒息死させたと。」 

 そこまで話すと、鶴見は堰を切ったように泣き始めた。

「啓一が…啓一が悪いのよ…。女癖が悪いから…。」

「詳しくは署でお聞きします。・・・では、行きましょうか。」

 

〔終〕

 

※このお話はフィクションです。登場する地名は実在しますし、新十三大橋は本当に一方通行ですが、それ以外は創作の話です。

※作者がやたら十三近辺に詳しいですが、十三近辺に住んでもいないし、ここ数年は十三には行っていません。ドン・キホーテを探しても梢はいません。ご注意ください。

※登場人物の苗字が全て大阪市の区の名前からとるという、粋なことまでやっています。ちょっと頑張ったので、リアクション欲しいです。