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創作恋話・眼鏡越しの空

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眼鏡がダサいわけじゃない。この、引っ込み思案の私がダサいんだ。知ってるよ。そんなことは生きてきて今までの間、何万回と自問自答してきたんだもの。

自撮り全盛時代に私はすっかり足踏みしたまんま。こっそりと挑戦しようとしてみた。スマホを向け、鏡写しに見える私。上目遣い、横からとか、眼鏡も外してみたりして。

どこから見ても、可愛く写れない。究極のコンプレックス。

LINEのプロフィールも、もちろん自撮りなんかじゃない。公園の花壇に咲いていたマーガレットの花を撮った、なんだか地味な画像。自分が作り上げた自分の枠をはみ出せない、意気地なしの私をそのまま現したようで、情けなくなる。

 

スマホのカメラモードを閉じ、ぼんやりとLINEの友だち一覧を眺める。やや早めのスクロールの中でも、一瞬でドキッとして手が止まる、「Nao」という名前。プロフの写真は海をバックに友達数人と小さく写っている写真。その小さな影を一生懸命にみつめる。

私の片思いの人、アルバイト先のなお君だ。彼は3歳年下の大学生。爽やかだし、年上の私なんかよりもずっとしっかりしている。…絶対、モテるんだろうな。考えても仕方ないことばかりが頭をぐるぐるかけ巡る。トークのページを開く。最後のやり取りは1週間前。

『お疲れ様です!今、電車が遅延していまして、シフトの時間より少し遅れそうです(謝る絵文字)最大限急ぎます(走る絵文字)』

それに対し、私は『わかりました』と書いてある、ウサギのスタンプで返信しただけ。

…そっけなかったかな。もっと、「気をつけてね」とか「慌てなくていいよ」とか、気の利いたこと書けば良かったかな。1週間前の自分の返信に、もう何回自問自答したんだろう。

なお君とはコンビニエンスストアのアルバイトで出会った。偶然シフトが同じ曜日で同じ時間だっただけ。LINE交換したのは、さっきみたいな遅れるなどの連絡のため。それ以上の関係に踏み込めない。LINEの「友だち」一覧にあっても、「友だち」なんてとてもじゃないけど言えないような、そんなよそよそしい関係。本当に、意気地なしで冴えない私。自分が悲しくなる。

 

明日は、アルバイトの日。なお君に会える。ぐるぐる考え事をするのはやめて、早く寝よう…。

そう思った瞬間、LINEの甲高い受信音が鳴る。通知欄を見る。なお君だ。心臓がキュッとなったあと、鼓動が早くなるのがわかった。こんな夜遅くにどうしたんだろう。欠勤のお知らせかな…。ドクン・ドクン。なかなかLINEを開けない。意を決してようやく開く。

「!!!」

その意外な内容に、その高鳴る胸の鼓動を隠すように急いで返信する。いつもと変わらない「了解しました」の猫のスタンプだけの、そっけない返信。心はざわついて止まらないのに。…ドキドキが止まらない。明日が待ち遠しくて。

 

翌日。

今日のアルバイトの時間は、いつもよりもお客さんは少なくて、頃合いを見てはバックヤードの整理などを交代でしていた。

「ミキさん、ジュースの補充終わりましたよ。うぅっ、やっぱり冷蔵庫にいたら寒いですね。」いつもの明るいなお君が笑いながらレジに戻ってくる。

「お疲れさまー。じゃあ、お菓子の方やってくるね」そういうと、私は裏へと向かった。いつも通りお菓子の段ボールを開き、必要なものを選別して補充するものを選ぶ。

その時。

ぐらり、と積んでいた段ボール数箱が傾き、私の頭上に落ちてくる。避けようとするはずみで尻もちをつく。

「いたたたたっ」

実際、お菓子の箱なので重みはさほどなく、痛みというほどでもないが、ついついそう言ってしまった。

「大丈夫ですかっ?」

音を聞きつけてなお君が飛んでくる。なんか、大げさで恥ずかしい。

「ごめん、大丈夫だよ。ほら、お菓子の箱軽いし。」ちょっとオーバーに平気を装う。

「あっ…眼鏡が落ちてますよ。はい。」

なお君が眼鏡を拾う。受け取ろうとして出した手は空を切った。なお君の両手が目の前に来る。「はい」と言いながら私に眼鏡をかけようとする。なお君の手と顔が近づく。思わず肩をすくめ、目を閉じる。眼鏡のつるの感触を感じる。ゆっくりと耳にかかり、眼鏡はいつもの位置に戻ってきた。

「ありがとう…」消えそうな、小さい声しか出なかった。

その時、表から「すみませーん」という声が聞こえる。お客さんだ。なお君は慌ててレジへと戻っていく。私はかすかに触れた彼の手の感触を何度も何度も頭がリフレインしたまま、しばらく動けなかった。

 

 

バイトが終わり、二人で店を出る。近くの公園のベンチに横並びに座る。そこでようやく昨日のLINEの話になった。

「あっ、なお君頼まれてたもの、持ってきたよ。」

「ありがとうございます!」

それは、ドリカムのアルバム。しかも、1990年代の、私たちの世代にはちょっと似合わない代物だ。なお君は何枚かのアルバムを受け取り、曲のリストを夢中でチェックしている。

そう。ドリカムのアルバムを借りたいと昨日LINEがあったのだ。以前からドリカムの話はバイト中にしていた。私が親から譲り受けた古いアルバムの事も話題になっていた。

「ミキさん、本当に嬉しいです。YouTubeで聞いてみて、昔の曲がどうしても聞きたくなってて。うわぁ、感動だぁ。」

おもむろになお君は自分のスマホを取り出し、YouTubeを立ち上げる。

「この曲、好きなんです。」

流れてきたのは「眼鏡越しの空」。胸がズキンとする。私はこの曲に自分を投影して聞いていたのだ。

もちろん、短い髪でしゃんとした後ろ姿の、憧れの人はなお君を思い浮かべて。しばらく私はぼーっと曲を聴いていた。

「…僕は、眼鏡をかけていても、かけていなくても、その…素敵だと思いますよ。」

曲に夢中になるあまり、この言葉をぼんやりと聞いていた。

「…ミキさん?」

呼びかけられて、はっとする。

「あ…ごめんぼんやりしてて。」そう言えば、さっき言ってた言葉って…。

「僕は眼鏡をかけているミキさんも素敵だと思います。でも、眼鏡がミキさんの気を隠すのを手伝っているのなら…外しちゃいますよ。」

そう言うと、なお君は私の頬を両手でふわりと包み、ゆっくりと私の眼鏡を取った。

「ほら…ちゃんと裸眼で僕を見てください。…僕の事、どう思ってるんですか?」

なお君の顔は50センチの距離で、まっすぐに私を見つめている。鼓動は最高潮に早くなっている。曲は「眼鏡越しの空」から、ピアノの伴奏に変わっていた。

…なんで、この曲なんだろう…。そう、次の曲は「すき」。まるで私の心を見抜いているみたいだ。恥ずかしすぎて、声が出ない。見つめられたままが耐えられなくて、伏し目がちに、ようやくかすれた小さな声が出た。

「すき」

音楽とシンクロしてしまった答えに、恥ずかしさが止まらない。

「ぼくも すきです」

私の腰に彼の手が回る。カチコチに緊張したまま、彼の肩に頭をもたれる。

「だって、私全然冴えないし、年上なのに頼りないし、なのに、なのに…」必死に「どうして好きなの?」の問いを投げかける。

「あなたはまっすぐで、とても素敵な女性ですよ。年齢なんて関係ない。年上とか関係なく、僕に甘えてくださいよ」

ぐいと引き寄せられる。力強く抱きしめられる。私はただ、その腕の中でドキドキしたまま小さくなっていた。

一体、どれだけの時間が経ったのか、時間の感覚がおかしくなっているかのように、まるで時が止まったかのように、二人は体を寄せあったままだった。

”きっと言える きっと届く 会いたい夜も 会えない夜も 超えて”

”思い切り 抱きしめたい この腕を伸ばして”

 

彼と私。「笑顔の行方」は、あなただけが握っている。

もうあの頃の私じゃない。

臆病な私が、「友だち」を超えて勇気を出せた、そんな夜の出来事だった。