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たこずえ創作劇場① 始まりのビール

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※これは、アプリメーカーというTwitterと連動してツイートを作るサイトで偶然出来た、全く無作為な言葉で作られたお話のタイトルが面白かったため、そのタイトルから想像を膨らませて書いてみた創作ストーリーです。もちろんフィクションです。


第一話『始まりのビール』

始まりは、ビールだった。
それは10年前、私がまだとある会社で勤めていた頃の話。
会社のT先輩とコンビニに入った時、時刻はすでに夜11時を回っていた。ふたりとも、くたびれた顔。無理もない。そして、その原因は私にあったのだ。

遡ること8時間前。
「えっ!あの書類がまだ出来てなかったのか!?」
「すっ…すみません…」
入社して一年、ようやく責任ある仕事を任され始めた時期に、まさかの確認ミスによる大失敗。私はただただ、どうしようという気持ちでいっぱいで、なかばパニック状態だった。
そんな時、5歳年上のT先輩は渋い顔ながらも先方へ一緒に謝りに行ってくれた。そして、ふたりで残業し、なんとか期限に書類を間に合わせることが出来た。

当たり前と言えば当たり前。私にはまだまだひとりでは責任の負えない事がたくさんある。私の失敗は直接の上司であるT先輩が責任を負う事になる。だから、謝りに行くのも書類を仕上げるのも当たり前。

でも。
確かにきつめにお説教されても、こんなに親身になってくれる上司は初めてだった。そして、一緒に尻拭いをしてくれるのも。怒られたのに、そして残業してるのに、このT先輩とならなんだか苦にならなかった。まるで、学校の文化祭前夜のような高揚感さえあった。そして、完成した時には普段以上の一体感があったようにひとりで思っていた。
「終わったー!お疲れ様、腹減ったな。駅前のコンビニに寄って帰るか。」

そうやって、今このコンビニにいるというわけだ。
確かに空腹だが、なんだかあまり食欲がわかない。まだ少し失敗を心に引きずってもいるし、色々な感情が入り乱れていて、食べたいものが見つからない。しかし、何か買わなくてはと、適当なカップ麺を掴んでレジへと向かう。
T先輩は何を買ったんだろうか。そう思い店内を見回そうと思った瞬間、後ろから声がした。
「今日はお疲れ様。ビール、飲めよ。」
そう言ってぶっきらぼうに小さな袋を手渡された。小さなレジ袋…もちろんその当時は有料ではない。無料の小さなビニール袋の中には、缶ビールが2本入っていた。
「あ…。ありがとうございます。」
本来社交辞令でも一度は遠慮すべきだったんだろうか、とか、もっと愛想の良いお礼を言うべきだったんだろうかと、あとからあとから思うのだが、そんな気持ちをよそにT先輩は足早に駅へと向かっていった。私は小さなレジ袋をふたつブラブラさせながら、電車へ乗り家路についた。

帰宅して。
テーブルに頂き物の缶を並べる。持ち歩きの時間のせいで、缶はすっかり汗をかいて少しぬるくなっている。そんなことはお構いなく、もっとぬるくなりつつある缶を眺めていた。

どうして、こんなに嬉しい気分なんだろう。別に高価なものをもらったわけでもない。そして、普段口数も少なく真面目過ぎるT先輩に特別な思いを抱いているわけでもない。
なのに、なぜ。
結局その当時の私にはわかる由も無かったのだが、とにかくその日はその缶を眺めてはニヤニヤしてのを覚えている。

今思い起こせば、その時からT先輩を意識し始めていったのだった。…当時は自分の中で認めていなかったのだが。

それでもあの当時、たったひとつわかっていた事。

それは。
・・・
もらったのは本物のビールではなく発泡酒だった、ということだった。
一瞬、缶のデザインで「いやっほう!いいビールもらっちゃったぁ!」と小躍りしたのは秘密である。

とにかく、それが始まりだった。